歯科インプラントについて
人間に施されて成功した歯科インプラントで世界最古といわれるのは、1931年中米ホンジュラスで発見された人体骨の下顎骨前歯部に貝殻を使用して、3本埋入されたものです。推定紀元前600年とされています。
アメリカ・マサチューセッツ州ケンブリッジのハーバード大学考古学・民俗学博物館に所蔵されています。 そのほか、中国やエジプトでも象牙製の歯が埋入された人骨が、発見されています。その後、宝石や金などいろいろなものが試されましたが、長期にわたり安定し、自分の歯のように噛める歯科インプラントは、つい最近まで出現しませんでした。
1952年、チタンが骨と結合することが発見され、その後、整形外科の分野で骨折の治療の一環としても応用され、歯科の分野にも取り入れられ始めました。
ただ、歯を失ったからといって、即インプラント治療というものでもありません。失った歯を補充する方法は、従来からある入れ歯やブリッジ(固定式の被せ物)などがあるからです。また、インプラント治療を希望される場合でも、埋入に必要な骨の量が十分であるかどうか、周囲の歯や歯茎の状態、噛み合わせの具合はどうかなど綿密な診査診断の結果、インプラント治療が適さないと判断される場合もあります。
また、歯科インプラント治療は健康保険が使えないので、患者さんの負担も少なくありません。そして、インプラントが入れば治療は終わりという訳でもありません。それを長持ちさせるには、常日頃からのセルフケアと歯科医院での定期的なメンテナンスが不可欠なのは言うまでもありません。
このように、歯科インプラント治療では、メリットやデメリット、術式の方法、インプラント以外の選択肢など、説明を受ける内容が多岐多様にわたります。主治医とは十分よく話し合って、納得の上治療を受けるようにして下さい。
なんといっても、天然の自分の歯に勝るものはありません。ご自身の歯を大切にしましよう。
インプラント(顎の骨の中に埋め込む人口の歯根)治療を受ける前に!
「インプラント治療」は今や世界諸国においても科学的根拠と統計学的に良好な経過を伴った歯科の最新技術であるのは間違いないです。骨量が十分で骨質が良好であれば埋入手術は親知らずの埋伏歯抜歯や歯周外科手術と殆ど同等であると思います。
かぶせ物の術式も、限局した症例なら通常のクラウン・ブリッジとほぼ同じです。
患者さんのお口の中の状態は千差万別で誰一人同じ人はいません。従ってインプラント手術適応の歯の欠損においても患者さんの健康状態、口腔清掃状態、手術の手技において一番求められる顎堤の状態も十人十色です。以下当院のインプラント治療における率直な取り組みを説明します。
インプラント本体はチタンが多く用いられ、チタンにハイドロキシアパタイト(歯や骨の成分)をコーティングしたものもあります。
チタン(Ti)は生体内に存在しない物質ですが生物学的安定性、科学的安定性(耐蝕性)、及び力学的安定性の三冠王で骨との生体親和性をもち、体に対し無害な金属とされています。このチタンの性質を応用して、顎の骨にインプラントを埋入植立し、その上に歯を作る治療を「インプラント治療」と呼んでいます。
顎の骨の中に埋入植立する部分が「フィクスチャー(インプラント本体)」
インプラント本体と歯をつなぐ土台にあたる部分を「アバットメント」
歯にあたる部分を「上部構造」と呼んでいます。
*生着率:最重要!
100%ではありませんが、適格な術前審査(CT撮影とコンピュータソフトを使用した3次元的解析)、的確な手術、十分なセルフケアとアフターフォローがあれば一般的にインプアントの成功率は90%以上といわれます。
適格な術前審査のためメディカルCTで骨質を正確に把握します。当院ではトヨタ記念病院口腔外科、豊田厚生病院口腔外科にてメディカルCT撮影の依頼をしています。
インプラント治療の利点
・ブリッジと比較すると
一番の利点は他の歯を削らないで済むことです
ブリッジが適用できない症例にも対応できる
・義歯と比較すると
違和感が少なく装着感が良い
会話がしやすい
浮き上がったり外れたりしない
食事の味に影響しない。入れ歯と比べたら食事はおいしい
固定のための留め金が無いので見た目がよい
食事の度に外して洗う必要がない
入れ歯にある留め金がないため他の歯に負担をかけない等々。
インプラント手術の初期的問題点
- インプラントを埋入後の疼痛
埋入手術は、生理食塩水を注水しながら、ドリルを低速回転でゆっくりと骨に負担をかけないように行いますが、術後の反応性炎症による痛みは個人差があります。
- 内出血と腫れ
術後の反応性炎症により、2−3日をピークとして腫れる場合もあります。化膿止め、痛み止めなどのお薬が処方しますので必ず飲んで下さい。
インプラントの中期的問題点
- 補綴物(かぶせる歯)の左右の歯の大きさと形体が異なる場合もあります。
歯のないところに最適な大きさ、形態の歯を入れるようにしています。そのため大きさが若干違ってくる場合があります。
- 掃除がうまくできない。
自己管理の徹底と定期的清掃指導を必ず受ける必要があります。
インプラントの長期的経過時における問題点
- 上部構造の白い歯が欠けた。‥・通常の白いかぶせ物も欠ける時がありますから、上部構造の再構築で解決します。
- 口腔内清掃が十分でなく、不潔な状態が継続する場合、歯周病になり感染症として、インプラントの周囲から膿が出たり、動揺を来たす。
- 強度の歯ぎしり等で咬み合わせにより歯周組織の外傷をおこして、上部構造を支えている土台が破折したりインプラント体が折れたり、動くようになる場合がありますが、極めてまれです。
インプラント手術の問題点の結論
保険治療ではありません
- インプラント治療は保険で治療できません。一般的には高額になります。お口のなかの状態やインプラントの本数、上部構造の設計、術式などにより大きく違いがでてきます。
- インプラントは衛生的に非常に過酷な口腔内環境を考えた時、歯グキから骨の中へと直接つながっているために個人差は否めなく、一律の保証は難しいと考えています。自分の歯以上に清潔さがもとめられます。このため患者さん自身による体の管理や口腔管理能力と努力もインプラントを長く上手に使えるかどうかを大きく左右します。
全身疾患について
重度の全身疾患(糖尿病、肝臓病、腎臓病など)や骨粗鬆症の方、進行し た歯周病や極端に食いしばる癖のある方などには、インプラント治療は推奨しません。喫煙は、お口の中の血流に影響を与え組織の免疫力を下げますので、インプラント治療の失敗の原因になります。術後の飲酒(問題外)もインプラント治療の失敗の大きな原因になります。
メンテナンス
残っている歯も含めて、インプラントも正しく清掃する必要があります。歯ブラシだけでなく歯間ブラシや糸ようじも使って丁寧に磨いてください。歯科衛生士により指導を受ければそれほど難しいものではありませんが、十分な手入れが必要だとお考えください。
年齢
年齢には制限はありません。
顎骨成長期(概ね17歳〜18歳まで)は避けます。
アレルギー
チタンは安定した材料なので金属アレルギーはほとんどありませんが、心配であれば皮膚科で金属アレルギーテストを行って、確かめてから治療を受けてください。
歯の形
前歯のインプラントは機能に加えて、見た目も重要ですが、100%同形態にするのは大変困難です。 インプラントの歯が入るまでに仮の歯を入れることもあります。
※インプラント治療をする部分の骨の量が足らない場合、インプラントを埋め込む前に、増骨手術など外科処置を必要とする場合があります。(別料金が必要になります)。
※インプラント治療は外科手術により、ご自身の歯に変わる人工歯根を構築します。従って永久的な治療と考えていただくのは難しいです。また健康保険も効かず、診断料・手技料・構築材料共に患者さんにご負担をおかけします。従来の義歯治療・ブリッジ治療も検討内容に含めて治療を受けるかどうかを判断してください。
インプラント治療の流れ(最も簡単な場合)
インプラントの埋め込みには一回法と二回法があります。
一回法では、インプラントを埋め込んだ時にお口のなかにふたを出したままの状態で骨とインプラントが安定するのを待ちます。
二回法では埋め込んだインプラントを歯グキで覆って骨とインプラントが安定するのを待ちます。

インプラント体(フィクスチャー)にふた(フィーリングキャップ)をします。術後は、化膿止めや痛み止めなどの薬が処方されますので、必ず服用して下さい。通常翌日に消毒を行います。インプラント埋入後インプラント本体と骨がしっかりつくまで一定期間(通常上顎は4〜6ヶ月ほど、下顎は3〜5ヶ月ほど)待ちます。

骨の状態が安定したことを確認し再度歯グキを切開して、インプラント本体にアバットメント(土台)を装着します。

歯グキが落ち着いたら上部構造(歯の部分)を作るために型を採ります。

インプラントにスクリューまたはセメントで歯を装着します。

上部構造歯(歯の部分)の装着後1〜2週間で、もう一度、かみ合わせの調整と歯ブラシが正しくできているかチェックします。その後は、数か月に1回のメンテナンスとなります。
治療後、快適に、気持ちよくインプラントを使っていただくためには、普段の手入れ(ブラッシングなど)と歯科医院での定期的なメンテナンスがとても大切になります。
インプラント治療は健康保険の対象外ですが、確定申告の際の医療費控除の対象となります。インプラント治療で支払った医療費の領収書は大切に保管しておいてください。詳しくは税務署にお尋ねくだきい。
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